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【コミッション】睦む色と儚い彩り

最近更新していなかった……。
最近コミッションをやり始めようと考え始めた矢先、のなめさんから「ちょっとやってみない?」って話を受けたのでガッツリやってみました。
いつもの通りBADエンドな感じですが、良ければどうぞ。蝋燭化とか蝋人形化とか溶解とかあります。
「四谷竹流(よつやたける) 新年の集いのお知らせ」と招待状。城奈の父はこの市議会議員であり、えらい立場なのは認識していたが、まさか招待されるとは思っても見なかった、
 招待状を受け取った夜、六宮翠(ろくみやすい)は私服姿でベッドに転がり、チャットで友人である七瀬(ななせ)きらりと送りつけた張本人こと四谷城奈(よつやしろな)と話を交えていた。

「それで、パーティーについてわからないからどうしようかって訳」
「うん。きらり、こういうパーティー行くの初めてで、服とかそういうのってあまり考えたことがなくって」
「そんなことなら心配しなくてもいいの―ね。ドレスコードを定めているのは大人ぐらいなものなのね。でも、どうしてもちゃんとしたいって言うならあてがあるのね」
「あて?」
 翠の返しにURLを貼り付ける城奈。開いた先には「お嬢様無料体験スクール」の募集ページ。
「実はここの先生、城奈の家庭教師をしていたのね! 電話したらまだ参加者に余裕があるから申し込んじゃったの―ね」
「なるほど、明日……申し込んだ?」
「えっ、まぁ、その。明日休みだし、開いてるのねって」
 2人の頭に画面越しに焦る城奈の姿が目に浮かぶ。
「きらりはいいよ! すーちゃんはどうする?」
「流石に急であれだけど大丈夫」
「やった! 明日どこで待ち合わせする?」
「いつもの公園でいいんじゃない?」

 きらりが行きたいという話を無下にはできない。翠もOKを伝え、通話を切った。
「お嬢様、かぁ」
 翠はお姫様になった自分をイメージしつつ、頭を振った。


 翌朝、3人は城奈に招かれるまま目的地である市民会館へと向かった。会場内にはすでに人が入っており、年齢問わず様々な女性が期待しつつレッスンの開始を待ちわびていた。
 そんな中、ドレス姿の美しいセミロングヘアの女性は城奈に近づき、ドレスの裾を持ち一礼した。

「ようこそ、レディの皆様。今回担当をさせていただく白房(しろふさ)ともうします」
「白房は色んなことを知ってるのね。バシバシ頼るといいのね!」
「城奈さん…相変わらず言葉遣いがよろしくないようですね」
「あっ、早速怒られた」

 言葉遣いを注意されたことで頬をふくらませる城奈をからかうきらり。
 挨拶を済ませると辺りも賑やかになり、それぞれグループごとに分かれてフロアへと入っていった。
「では行きましょう。今日を良い日にしましょうね」
「はーい!」
 そうにこやかに告げ、白房も3人を案内する。言われるがままついていく城奈達だが、ふと翠の足が止まる。

 部屋の隅にぽつんと佇んでいる緑色の人形――いや、芯が生えているからロウソクだろうか。何故こんなところにあるのだろうかという疑問が、彼女の足を止める。
「すーちゃん早く!」
「あわわ」
 しかし、きらりの言葉に急かされるようについていった。


 ドアを開くと、そこはやや暗く、ロウソクの火が照らすフロアとなっていた。ロウソクの一つ一つが人の姿をしており、皆ドレスを纏った優雅な姿。アロマの芳しい匂いに包まれた空間は4人を出迎えた。
「これから一日を通して様々なレッスンを学んでいただき、最後は隣接する大フロアで全員と社交ダンスを踊る予定になっています。少し疲れるかもしれませんが、頑張っていきましょう」


 白房の言葉にそれぞれ返事をし、お嬢様スクールは幕を開けた。
 最初は言葉遣い、なれない敬語を使いながらも復唱し、身に着けていく3人。しかし……。
「もう疲れたの―ね」
「城奈さん」
「はーい。承知いたしましたなのね」
「伸ばさない、語尾は控えて。みっともないですよ?」
 注意を受けてもなかなか語尾は治らないし、伸ばしてしまう。
 きらりは声が大きすぎ、翠は逆に小さすぎると指導を受けつつ、城奈だけはきらりと翠に見守られつつ補習を受けていた。

「確かになのーねって言うお嬢様は城奈ちゃんぐらいかも?」
「むーっ、きらりちゃんまでひどい!」
 きらりの意地悪な言葉に城奈がムキになり、また怒られたのは言うまでもなかった。


「これってどっちがどっちだっけ」
「左から使って、一番右がサラダとスプーン」
「すごいのね! 城奈もよく覚えてないのに」
「お母さんから嫌ってほど習ったからね」
 順に並べられたスプーンとフォーク。テーブルマナーは料理の基本というが、きらりはもちろん城奈すらもうろ覚えという有様で、注意を受けつつ習っていった。
 その中で翠だけが間違えずテーブルマナーを実践し、白房を驚かせた。

「うふふ、この中だと六宮さんが一番お嬢様に近いかもしれませんね」
「白房さんーっ!」
「きらりは初めてだし、これから覚えていけばいいよ」
「翠ちゃんも!?」


「いち、に……おっと」
「すーちゃんふらふらしてるよ」
「翠ちゃん体育も苦手だからなのーね」
 社交ダンスは場数を踏んでいる城奈が一番うまく、次にきらり、そしてふらついた翠と言ったところか。一通り練習を終え、一同は休憩に入った。

「お疲れ様。少しだけアロマキャンドルをつけるわね」
 白房が火を灯すと、再び香りが部屋に広がっていく。
「女性はこのアロマキャンドルのように儚いもの。だけど学んだ礼節は忘れないものです」
「よく城奈にも同じことを言ってたのね」
「いい先生だよね」
「うんうん、城奈ちゃんすっごく頼れる! 勉強教えてもらったりとか」
「宿題は自分でやるのーね」
「やってるもん! すーちゃんにも教えてもらってるし」
「その割に写させてってたまに頼まれるけど」
「あーっ! それは言っちゃダメ!」

 ワイワイと騒ぐ3人。それを遮るかのように白房は手を鳴らした。
「さぁ、そろそろ着替えて最後のレッスンに入りましょう」


 ドレスに着替えた3人のレディ。そして合流した他の受講生と先生達。
 最後のレッスンは集団での社交ダンス、いかに美しく上品に見せられるか。背中の空いた扇情的なドレスは他の人と同じだが、大人だらけの中もあり不安を隠せない。

「では、社交ダンスのペアを決めてください。先生方は端数の方とお願いします」
「じゃぁ、きらりはすーちゃんと――」
「七瀬さん、一緒に踊りませんか?」
 言葉を遮ったのは白房だった。同じドレス姿だが様になっていて、どこか頼りがいのある存在にも見えた。
「うーん、じゃぁ白房先生と一緒に踊る!」
「ありがとう七瀬さん、ではお手を」
 そういい、差し伸べた手をつかむきらり。その瞬間、手を通して流れる妙な違和感を手から感じる。
「どうしました?」
「なんでもないです!」
 慌てるきらりを尻目に、城奈は翠の手を取る。
「じゃぁ翠ちゃんと城奈がペアなのね」
「リードお願い」
「何言ってるのね、翠ちゃんも動くのーね」
 2人がそうこう言い合っているうちに曲が流れ出し、3人はステップを踏みだす。それぞれ優雅に、そして互いを立てながら踊るのが社交ダンス。基本的なステップのみに終止していた3人だが、ぎこちないながらも一応の形にはなっていた。

「これでおしまいっていうのも寂しいのね」
「いや、集いの練習じゃんこれ」
「おっと、それもそうなのね!」

「勢いは私が抑えるから、気にせず習ったステップを」
 きらりはステップを合わせようとするが、先程から背中がヒリヒリして集中できない。
「(はしゃぎすぎたかな? でも、これで終わりだもんね!)」
 痛みを我慢しつつ、きらりらしい大きなステップを踏む。だんだん自分らしい動きになり、白房があわせ――そして、曲が止まった。

「お疲れ様、3人とも体力は大丈夫ですか?」
「ようやく、終わった……」
「翠ちゃんもよく頑張ったのね」
 たった数分間の曲のはずが、3人には1時間を超えたかのような疲れがあった。それでも夢中に踊りきった。
「何とか平気、だけど何だか背中が重たいの」
「七瀬さんは大きく動いたから、その分疲れが出ているのかも。このあとは証書授与だから、それが終わったらゆっくり休みましょうね」

「きらりも上手だったよ」
「初めてとは思えない大胆なステップだったの―ね」
「ありがとうすーちゃんに城奈ちゃん、ぐてぇ」
 突っ伏すきらりの背中を撫でる2人。するとドレスに隠れるようについた緑の斑点が目に止まる。
「緑色の、あざ?」
「どこかぶつけたのーね?」
「うーん、誰かにぶつかったのかな? 跡にならないといいけど」
 少女の背についたあざは、痛々しさはなく、まるで張り付いているよう。しかし、2人がそれ以上触れることはなかった。


 休憩と歓談の時間も過ぎていき、先生たちが修了証書の入った箱を準備する。
 中央に立つのは白房。彼女は乱れを感じさせず、マイク越しに締めの言葉を述べ始めた。

「みなさまお疲れ様でした。今回のレッスンを通し、ひとつ上の淑女……いえ、お嬢様になられたかと思われます。女性は儚いものですが、学んだ礼節は一生にわたって使えます。しかし――」
 白房は言葉を止め、再び話し始める。
「儚さもまた、女性である。といいましょう。それなら美しさと儚さを兼ねた姿に変わるのもまた、本望ではないでしょうか?」

 おかしい、3人はどこかで直感した。白房が話した言葉と違う。だが、白房は言葉を止めない。
「各教室にあったアロマキャンドル、それこそまさに儚さと美しさの象徴。淑女の礼節を持った今、あなた達が――」
「伏せて」
「えっ、えっ」
『そのアロマキャンドルにふさわしい』。そう告げた瞬間、近くにいた先生達が緑色の液体に変化し、ドレス姿の受講生たちに襲いかかった。

 突然の事態に逃げ惑う人や蝋の直撃を受け、呆然としたまま固まった人。
 足を固められ、絶望の表情を浮かべながら少しずつ侵食され、固まる人。
 まさに蝋が散る地獄絵図は、あっという間に数十人いた受講者を3人除いて蝋人形に作り変えてしまった。

「やはり、あなた達は残りましたね」
「白房、さん?」
 思わず身をかがめた城奈は無事だったが、きらりは身体半分蝋がかかり、翠もドレスが固まってしまった。
「やっぱりイロクイ。しかもこいつ、かなり強そう」
「ウフフ、人間の姿も役に立つものネェ」
 正体を表した白房の髪が赤々と燃え、ドレスは白く液蝋状に、肌は緑の蝋で模られた禍々しい姿に変貌していく。その姿はさしずめ『ジョロウイロクイ』とでも言おうか。

「あなた達に近づいたのもこの為、私の蝋に染まって、色を全部よこしなさい」
「最悪」
「だましたな!」
 不快な顔をし、黒の色と白の色をそれぞれ放出する翠。しかしジョロウイロクイは悠々とかわす。
「流石は強い色の中でも優れているだけはあるわね。でもあなた達、足元がお留守じゃなくて?」

 イロクイの言葉に2人は足元を見る。そこには先生だった蝋が足元に集まり、足首をつかむように固まっていた。
「きらり、剥がせそう?」
「何とかやれそうだけど、まずは体が動かないのを何とかしないと」
「ど、どうしよう。白房が、白房先生……」
「しっかりして城奈ちゃん! 赤の色だよ、赤!」
 パニックになりかけた心を抑えこんで赤の色を貯める城奈だったが、すでにイロクイにはお見通しだった。

「これでオシマイ」
 腕を突き出すとドレスの袖が膨れだし、2人の目の前が緑色に染まる。
「うぅ、何が起こったの?」
「何かかけられたの!」
一瞬慌てるものの気にせず、色をぶつけようとする2人だが、当然身体は動かない。

「翠ちゃん、きらりちゃん……」
 城奈の目には状況がありありと浮かんでいた。 ジョロウイロクイの腕から放たれた大量の蝋液は2人を直撃。翠もきらりも一瞬でドロドロの緑蝋で覆われ、城奈だけが翠にかばわれて奇跡的に無事だった。

「私は後でいいから、きらりは自分の色でなんとかして」
 目を向けられないが、何故か意思疎通はできる。翠はきらりに意思を伝えるものの、反応が帰ってこない。
「きらり?」
 何度呼びかけても帰ってこない。すでにきらりに付着した蝋は乾き、そのまま固まってしまったかのように、ピクリとも動かない。
「きらり! き、ら、あぁああっ!!?」
 それでも呼びかけようとする翠だが、全身にしみるような痛みが走り、身体を苛み始めた。
「ウフフ、きらりちゃんはもう蝋の塊。私と一緒に踊った時、先に蝋を植え付けておいたの」
 きらりについていたアザ――イロクイの蝋はきらりの身体を蝕み、その蝋が全身に及ぶと即座に結合。内と外から一気に蝋化したきらりから、もう声は聞こえない。

 そして翠も外から内に蝋が染みこみ、乾燥しながら作り変えられていく。
「うぅぅ、しろ、な」
「翠ちゃん、負けないで、翠ちゃん!」
「に、げて。たすけ、よんで」
 城奈の持つ色の力では太刀打ち出来ない。しかし城奈は冷静さを欠き、ひたすら呼びかけ続ける。
「見捨てていけないの!」
「は、や、ぁ――」
「翠ちゃん!? 返事して翠ちゃん!!」
 翠の死を察し、目を見開きパニックに陥る城奈。もはや精神は入り乱れ、まともな思考すら怪しい。
「ごめんなさい、ごめんなさい。私が、こんなのに誘わなければ……」
 このまま逃げるしかないのか。城奈は幽鬼のようにふらふらと立ち上がり、背を向けようとする。

「ありがとう城奈ちゃん、あなたのおかげで色使いが――」
「あああああああ!!!」
 ジョロウイロクイの言葉を振り切るように扉に向かう城奈。開けば誰かが出てくるだろう。そう思っていた。だが――扉のノブに手を掛けても、扉は開かない。
「なんで!? なんで開かないの!?」
 押しても引いても動かない、鍵がかかっているわけでもない。まるで壁にドアノブがついているかのように、びくともしなかった。

「この部屋は、元からなかった部屋。私が人の色と香りを練りあげて作った儚い幻覚の部屋。開かないのも当然。でも、もうすぐ消えて色鬼がやってくる。その前に――」
 ジョロウイロクイのスカートの裾がまくれ、中から蛇のような白縄が大量に飛び出していく。
「儚い、芳しい、アロマキャンドルにしないと」
 頭に刺さった短い縄はゴリゴリ、ガリガリと激しい音を立て、蝋の屑を吐き出しながら長く成長していく。
 翠やきらりも例外ではなく、内部を削られる度に2体の蝋人形はガタガタと揺れ、蝋の屑は溶けて侵入口を塞ぎ――蝋人形と一体となることで芯の付いたアロマキャンドルが完成した。


「これで2人はただのアロマキャンドル。色使いのアロマキャンドルなんて、なんて贅沢」
 城奈の耳と鼻には蝋を削りだす音とアロマの香りが焼き付き、今もなお聞こえる。逃げ場はなく、ただ振り返るしかない。現実が、目の前に焼き付く。

「黒の色使いの通り、私を倒せば燃え尽きて液体にならない限り全員元に戻る」
「…………」
「だけどあなたには力がない。そして、私は今から食らう」
「やめて」
「白房という人間、美味しかったわ」
「やめてぇ……」
「人は儚いけど糧になる。ウフフ、ウフフフ!」

 イロクイの髪から火の粉が飛び散り、アロマキャンドルに次々と火が灯る。

「やめてええええええええええぇぇぇぇ!!!!!!」

 キャンドルからあがる白い煙とともに聞こえてくる断末魔の数々。耳をふさいでも聞こえてくる声を必死でこらえても、次から次に聞こえてくる。

 そして、翠ときらりの芯にも火が灯る。燃える火の勢いは他の人に比べて非常に強く、その身をどろどろに溶かしながらあげる濃い白と黒の煙はイロクイに取り込まれていく。イロクイが歓喜の嬌笑を放っているようにも見えたが、城奈の耳には断末魔しか聞こえない。

 城奈の目の前で2人が溶け落ちていく。腕や頭が垂れ下がって蝋の固まりとなっていく。ドレスとくっつき、山のように再形成されたロウソクはなおも燃え続け、床にシミとなって広がっていく。

 ノイズのような断末魔の中、2人の断末魔だけが何度も、何度も頭に鮮明に響く。

 ごめんなさい、守れなくてごめんなさい。
 バイバイ、城奈ちゃん。みんな。

 断末魔、炎、香り、削る音、そして自分の無力さ。
 しばらくぼんやりとしていた城奈だが、次第に炎に意識を吸い込まれ――彼女の意識は真っ黒に焼け落ちた。


「たっぷり力を得たし、そろそろ逃げないと……」
 すでに蝋燭についた火は軒並み消え失せ、原型を留めているものは皆無。周囲の煙も失せ、色艶の増したジョロウイロクイは、座ったまま虚空を仰ぐ城奈を一瞥する。
 彼女も喰らえば力にはなる。だが、一つ間違えれば色鬼によってすべてを奪われる。2人分の力を得たとして色鬼に勝てるかといえば、難しいだろう。
 だが、何かが引っかかる。食らった人間の意志か、まるで食後のデザートのように城奈の色を食らう欲求が湧き上がる。
「迷っている時間すら惜しいわ」
 蝋のドレスが動き、ジョロウイロクイが城奈の袂に這い寄る。そして、何も言わずに城奈の口を封じた。

「ン、ウウゥ」
「ん、オイシイ……逃げなきゃ死んじゃうのに、私が食べられるのに罪深い子」
 口づけは初めてではなかった。しかし、友人の死と自ら招いた惨状に心が砕けた城奈は、叫ぶこともなく、ただ受け入れ、涙を流す。

 城奈の口の中に妙な味が流れこむ。苦く、しかし甘ったるい。花の香りを濃縮したかのような液体は、嚥下すると舌に残り、食道を、胃を通っては動きを止めていく。まるで内側から固められるかのように、ジョロウイロクイは自らの色を並々と流しこむ。
「ン、ウェ、アァ……」
 やわらかな肌が見る間に緑色に変じ、柔らかさも失っていく。光が消え、涙を流す目も蝋の珠となり、涙だけが唯一液体のまま蝋燭の肌に残る。
「(城奈も蝋人形に……でも、意識がある、翠ちゃんも、きらりちゃんも、意識が残ったまま日を付けられたんだ)」
 蝋になっても意識があり続け、ジョロウイロクイの接吻と生暖かい感触を腕と体で感じる。日を付けられるまでまだ生きていたという事実がさらに城奈を追い込んだ。

「ん、ふぁ。あとはろうそくの芯を埋め込んで、アロマキャンドルにするだけ。でも、貴方は特別」
 ジョロウイロクイが城奈の形をした蝋人形から口を離すと、髪の一本を切り離して城奈の頭に差し込む。キンモクセイの香りがほのかに立ち始め、ジョロウイロクイの鼻腔をくすぐる。
「この芯はめったに生えないの。火をつけたら最期、生命力だけじゃなく、知識もすべて煙にできる、私の髪」
「(ちしき、も……わたし、きえる?)」
 既に花の香を撒き散らす人型アロマキャンドルは、ただジョロウイロクイのつぶやきに耳を貸すだけであり、抵抗はおろか指一本、涙一粒すら流せない。
 ただ、ジョロウイロクイは邪悪な笑みを浮かべ、仕上げるべく指先から火を生み出す。
「貴方はどんな色の煙を見せてくれるのかしら?」
「(ア、アァ……)」
 ジョロウイロクイは指先に生み出した火を、そっと城奈の頭に映した。
 暖かな感触と、天に登るような感覚。昇天の瞬間を表すなら、まさにこんな感じだろうか。
 魂が、知識がすり減り、消えていく。後悔も痛みも、そして感情や言葉、生命力も全てどろどろに溶け、煙になって消えていく。
「(サン、くん――)」

 真っ黒だった目の前が白くなり、その白さえも、感じない。
 城奈の時間は、もはや金輪際動くことはないのだから。

 ジョロウイロクイの目の前には、数秒も立たぬうちに原型を逸し、顔や髪の毛が崩れ、手足につららが生えたアロマキャンドルがあった。既にイロクイによって作られた空間は消えかけ、周囲の煙は空へ散り、沸き起こるほのかに赤い煙だけが女王イロクイに流れていく。
 この煙こそ城奈の生命力であり、吸収することでイロクイはさらに強大化する。さらに、変化は続く。

 ジョロウイロクイは自らの身体をどろどろに溶かし、肉体を再構築し始める。冷えて固まった楕円の蝋塊はもちろん、グシャリと潰れ、まだ熱さがのこったままのアロマキャンドルの残骸すらも取り込みながら、色使いを騙した白房に変じたように知識を元に身体を組み替えていく。

「ン、あ、あー……こんな感じ?なのーね」
 背は小さく、髪はセミロングからツーテールに。そして、服はドレスを着た姿。間延びした語尾と声。傍目からでは四谷城奈にしか見えないその姿は、ジョロウイロクイが城奈の知識を食らうことで再現した姿。これまで幾人もの知識を喰らい、人間を騙してきたジョロウイロクイは色使いさえも模倣してしまった。
 当の城奈はもういない。翠ときらりだった蝋の塊と一緒にジョロウイロクイに取り込まれ、もはや姿一片すらない。すなわち彼女――ジョロウイロクイこそが四谷城奈となったのだ。

「部屋が既に消えかかってるわね。場所がバレるのも時間の問題。逃げなちゃね、なのーね」
 あくどい笑みを浮かべた城奈は首から上を再度溶解させ、ドレスを身につける前に着てきた服を模倣する。そして、扉とは逆側にある壁に向かって飛び込み、街へとぬけ出した。
 後ろを振り返れば風景が崩れ、建物裏には蝋の残骸が散らばっている。中には手や足も含まれるが、元が人間だと気づくものは一部しかいないだろう。

「まだ色鬼――零無(れいむ)が来る気配はないわね。色鬼1体食らう器になんて出くわしたら一溜まりもない……ひっ!?」
 慌てて城奈が身を押さえて探ると、身体の中から蝋にまみれた長方形の携帯電話が現れる。恐らくドロドロに解けた城奈だったモノが持っていたものだろう。

「もしもし?」
「城奈ちゃん!? 良かった。電話が通じなくて心配してたのよ」
「一体……もしかして、イロクイ?」
「……えぇ、何でもカルチャー教室にイロクイが居るの。すでに何人も犠牲になってて、色神様が見つけ次第教えてほしいって」
「そういうことだったのーね。なら安心するのね、そのイロクイっぽいのを翠ちゃん、きらりちゃんとでやっつけたのね」

 まさかバレたのではないかと焦ったものの、電話口の少女、布津之紫亜(ふつの・しあ)の言葉にとっさに切り返す。
「なら良かった。それで、今どこにいるの?」
「帆布中央公園の中にある森なのーね。出たいけど、きらりちゃんが身ぐるみ剥がされて増にされてしまったし、重たいから出るに出れないのーね」
「あぁ……人手居る?」
 紫亜の苦笑いが電話口から聞こえる。どうやらうまく騙せたようで、口元が上がる。誰を誘い出すか――イロクイは直感で決めた。
「うーん、サン君でもいいけど女の子の服持って行かせるのも可哀想だし、紫亜さんも一緒に来てくれるのね? まだ大丈夫だけど、きらりちゃんが早く戻ったら色々大変なのね」
「解ったわ、もし先に像から戻っちゃった時はよろしくね」
「城奈にまかせるのーね!」

 そう告げて電話のスイッチを切り、城奈は身体を融かして小さくまとめると、近くを走る車の後ろに張り付く。向かう先は帆布中央公園の隣りにある小さな森、イロクイがうろつく魔境。
 色鬼の目をある程度誤魔化せ、時間を稼げる。あとは紫亜とサンが来る前に準備をしなければなるまい。
「(この子の知識、すごく豊富だわ。もっともっと利用させてもらおう。そうすれば、色鬼を逆に食べてしまうことだって出来るかも)」

 彼女の知識はジョロウイロクイが消えても無くならない。色鬼が喰らえば継承され、延々と巡り回っていく。彼女の奥の手は、城菜に永劫の責め苦を与えるに等しい行為でもあった。

 紫亜もサンも、色渕校区へと走っていく車も。この帆布市に、新たなる脅威の種が生まれたということに誰も気づいていない。
 脅威の種がこのまま芽吹くか、それとも食われるか。それはまだ、誰にも解らない。

 確実なのはただ一つ。この世界から3人の色使いが消え、イロクイの餌となったことだけである。



■登場人物
・ジョロウイロクイ
蝋のスカートを身にまとい、髪は炎になっている女性型イロクイ。
もともと蝋イロクイの一種だったが、人間の生命力を溜めるにつれて強大化。色使いを圧倒する力を身に付けた。
城奈の家庭教師であった白房の知識を元に姿を変え、お嬢様教室を開いては人々をアロマキャンドルに変えて生命力を食らっていた。

・白房
城奈の元家庭教師、「若さは儚いけど知識は不変」をモットーとする女性。30台後半だが若く見える。ジョロウイロクイに生命力を奪われ殺害された後、成り代わられる。
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