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悪魔よ、歪め

何か自分に正直になって書いてみたら出来上がってました。
色々胸くそいものだけど、やっぱり状態変化は好きなんだなって、そう思った次第。

どっちが悪魔かは見る人によって代わると思う
 とある美術館に一体の彫像がある
『門を守る者』と名付けられた彫像は、肥大化したコウモリの翼に長い2本角を付けた、長髪の美女。
 全身をブロンズで象った裸婦像だが、乳首などの当たり障りのない部分は削られ、全身はトーガを着ているかのように布が巻き付けられていた。
 豊満とは言いがたいが美しい形を持った胸のラインもまた、布によって覆い隠されていた。

『芸術への冒涜』『世の中が厳しくなった』という声を受けながらも、芸術家は当たり障りなく"仕事"をこなす。
 そう、仕事だ。芸術的な作品とはあくまで結果であり、制作工程はおろか素性も明かさない。
 表に出ているのは"役者"は良い演技をしてくれるので大変助かっている。
 そう。私はただ、作品だけを作り続けていればそれで良い。


「私を……どうするつもり?」
「ありきたりな疑問にありきたりな返答を返そう。新作の彫像になってもらう」

 私のように特殊な力を持っていると、何かと探りや捕獲を試みる奴らがいる。
 目に前にいる女性もその1人だ。"祓魔(ふつま)調査官"という大層なネーミング通り、なかなかの美女だ。
 私は手袋を外し、その美女に手を向ける。すると胸から上下に分かれるよう少しずつ全身が青銅色に変わっていく。

 常人の力ではない。とある神から与えられたこの力は、対象を望む彫像に変えることができるそうだ。
 これまでにさまざまな女性を芸術品に変えてきたが、材質はもちろん意識の有無、追加パーツの取り付けまで思いのままにできる。私が考える上で最高の能力だ。

 しかし、私も力に浮かれてやりすぎてしまった。
 "祓魔調査官"――つまり、特殊能力を乱用する存在を確保する部署に目を付けられてしまった。
 特にこの彫像に変える力は異端だったようで、芸術品を作って1人で満足できる日々はあっけなく壊されてしまった。

 だが、救いの手はあるもの。とある組織が私をかくまってくれるというのだ。
 身の安全と公開の場、そして生活を保障する代わりに、月1で作品を譲渡すること。これが彼らの求めてきた条件だ。
 条件自体はこの能力があればたやすいもの――だが、作品と言うからには一定の基準を敷かれてしまう。
 きれいな顔かどうかのチェックは当然として、人であることが解るような作品にすること。指定する条件に当てはまる作品を作るのも重要だ。

 そんななか、祓魔調査官は綺麗どころが多く、向こうから飛び込んでくるボーナスアイテムともいえる存在だった。
 目の前に居る女性も祓魔調査官の1人で、すでに1体のブロンズ像と化している。
 だが、お楽しみはここからだ。

 さらに力を加え、イメージを膨らませる。
 手からは光があふれ、その手を上から下ろしていくと、端正な頭のラインに突起が生え、見る間に伸びていく。
 スーツはボロボロに風化し、乳首や乳輪も削られていく。もちろん秘部も削れ、埋まっていく。そしてボディスーツをまとったかのような、のっぺりとしたボディラインが露わになった。

 本来なら削らなくても良いものだが、そういう注文なのだから仕方なく削るしかない。
 その『やるせなさ』を目の前の女――いや、彫像にぶつける。

 ハイヒールも証拠隠滅に削って新しいものに作り替えると、仕上げとばかりに背中から2枚の石版がせり出しはじめる。
 バランスが崩れて後ろに倒れないよう急いで削り、1対の翼に変えていく。
 そうすれば『美女ガーゴイル』のできあがり。今回のテーマである『芸術的な亜人』は完成だ


 不満足な作品ではあるが、彫像は無事に納品され、好評を得たようだ。
 しばらくすれば足が付くかもしれないが、後ろ盾が居る以上は心配することもない。
 そう感じながら遠巻きに眺めていると、何者かが後ろからぶつかってくる。

『無礼な』。そう思っていると、ぶつかった主――10代後半ぐらいだろう女性は私をにらみつけてきた。
「やっぱり表に出てたのは偽者ね」
 警棒。否、スタンロッドか。スイッチを入れられてしまえば、いくら力を持っていてもただでは済まない。
「だから何だ」
「表の彫像に見覚えがあるでしょ。元に戻す方法を教えなさい」
「ないな」
「ふざけてるとスイッチを入れるよ。あんたが異端者なのは解ってるし、飾られてるのは私の姉さん。これでもまだしらを切るの?」

 なるほど、彼女は姉妹だったか。そう考えると創作意欲もわいてくる。
「わかった、降参だ。君は姉さん思いなんだな」
 にこりと笑みを返すも、少女は依然として厳しい表情を向け続ける。
「だから元に戻す方法も教えよう」
 言葉を告げた瞬間、少女の目が動く。
 動揺ではなく、まるで何かショックを当てられたかのように白目を剥いて、私の方に倒れ込んできたのだ。

「それは、神に祈ることだ。ご苦労、このまま裏に向かう」
 少女の居た場所にはスタッフの姿。異常事態を察知して上手く当て身を打ってくれたのだろう。
 私は少女の腕を肩にかけると、ケガ人を連れて行くように備品置き場へと向かった。


「最低、何が神よ! 神は神でも、あんたのなんて邪神じゃない」
 意識を取り戻した少女が発した一声は、非常に勇ましいものだった。
 念のため縛ったうえで、不可視の力を持つ能力者にポーズを固定してもらった。

 それでもなお、この勢いだ。
 そして上から下まで見ると、確かに調査官の面影がある。
 ツインテールはほどけば長髪にはなるだろうし、目つきや胸を除く体格などはそっくりだ。
 胸の大きさや性格。そしてクセのある毛質が唯一の違いか。

「……何よ、さっきからじろじろ見て。彫像にする品定め?」
 生意気を言う。私は彼女のトップスをつかみ、大きくまくり上げた。
 白いブラジャーは二つの大きな山を形作り、白い器をひっくり返すと、やや沈着したピンク色の乳首と乳輪。
「ふむ、乳首は姉に似てそっくりか」
「見るな、このキモナルシスト!」
「八つ当たりだな。お前の姉にはここまで確認しなかった。それほど良い逸材だと言うことだ」
 手際よく髪留めを取り去ると、広がったツインテールからぼさっとしたウェーブのあるロングヘアーに変わる。
 勝手に髪型を変えられたことに不快な顔を露わにするも、少女の体は一向に動かないでいた。
「どっちにしても同じことでしょ。それとも、今は力がないから時間を稼いでるとか?」
 口が減らないが起こる気にもならない。この後の一言二言が告げられる前まではそのような気分だった。

「それとも何? 誰かに言われないと作らないの? ダサくない?」
 ぴくりと眉が動く。おそらくといわず、姉にされたことに対する当てつけだろう。
 少女はさらに言葉をぶつける。
「だから姉さんをあんなよくわからないモノを付けて出したんだ。それを見に来るとか、気持ち悪いの多すぎ」
「……」
「あれー、図星? 何か言ったらどうなのキモオタ芸術家さん??」

 私は思わず激高し、この少女を平手で殴ってやろうかと考えた。
 だが、その手を止めて彼女に向けることにした。
 手袋越しでの使用。だが、怒りで出力が強くなりすぎたのだろう。
 手袋は石と化した後にボロボロに壊れ、崩れ去ると同時に爆発したかのような光が少女に当てられた。


 まぶしい光が当てられ、体が強ばり、動かなくなる。
 目は開きっぱなし、心臓は――動いているかも解らない。だけど不思議と意識はある。
『彫像になってしまったのだろうか』。そう考えながら光を浴び続けていると、声が聞こえてきた。

「起きろ、意識は残している」
『あっれー? 怒ってる?』なんて声をかけようかと思ったが、口が動かない。
 確認しようにも手も動かない。まるで日焼けしすぎて突っ張った肌がずっと続いているような、そんな感覚。
「私は確かに気持ち悪く、オタク向けともとれる作品を世に出している。それは合っている。そして後ろ盾が居ることも、だ」
 だからなんだというのだ。聞き流しつつ気の済むまでしゃべらせる。聞きたくなくても正面の男から視線が離れず、ひどく熱気こもった口調も良く聞こえる。
「だが、お前は芸術そのものを冒涜(ぼうとく)した。見るものを馬鹿にし、作品をも馬鹿にした。なにより――お前は私のやりたいことを薄っぺらくしか見ていない」

『今から本性を見てもらう』。その言葉とともに別のスタッフが姿見を置いた。
「!!!」
 叫びたくても叫ぶことができない。彼女の全身は灰色の石像に変わり、特に顔は唖然とした表情のまま固まっていた。
 その石像がなぜか上半身だけ前のめりに傾いていく。
 手が開き、体を前に突き出し、今にも襲いかかりそうな態勢が形作られていく。
「(い、石なのに何で動くの!?)」
「『石なのになぜ動く』か? それがこの力の真価だからだ。モノになっても、自分が作ったものであればいくらでも修正が効く」

 さらに男が光を浴びせていくと、体のいたる箇所に激痛が走り出す。
 痛さにもだえることもできず、体を固定された少女のあらゆる場所で変化が起こりはじめた。

 まず細い手足は節くれてかぎ爪のように変化し、手のひらや足の甲は3倍近くにまで膨れあがるアンバランスな外見と化した。
 さらに顔や目にも痛みが走る。視界がゆがむと同時に背中まで見えるようになった。目が大きくなると同時に奥につり上がり、目玉が飛び出したかのようなぎょろ目。あまりの変異に言葉を失ったが、さらに続く痛みに苛まれる。

「(痛い痛い痛い! もう止めて、やめてください!)」
 泣いて懇願したくてもできず、変化に合わせるかのように頭の形も変わる。
 頭が押しつぶされるような痛みののち、鏡に映った少女の頭は上下からプレスされたかのように押しつぶされ、少女の視界が姿見から左右に移る。

 左右にはマネキンや人形の残骸が転がっている。これまでに失敗し、廃棄処分となった作品……いや、元人間だ。どれも頭や胴体が欠け、砕け、ゴミのように扱われている。
「(ごめんなさい、ごめんなさい。もう馬鹿にしません。探りもしません。だから――)」
 その言葉を遮るかのように、怪物となった少女の後頭部から2本の石塊が伸び、ひしゃげた頭についている口が大きく裂けた。
「(アアああアァァァ!!!)」
 砕け、削れていくうちに石の塊は醜くねじれた角になり、大きく裂けた口には人間の歯が再生成され、人間をかみ殺さんばかりの牙が生えそろう。
 舌は長く伸び、潰され、伸ばされた顔と歯に見合った長さに保たれる。
 立体感を出すために首も前方に引き延ばされ、バキ、バキと石が生成される音を聞きながら、彼女は自分自身を否定しはじめた。
『首が伸びる訳がない』『こんな醜い彫像、私じゃない』というささやきに耳を傾けつつ、芸術家は呼吸を整える。

 確かに興奮していた。美しいと思ったモノを徹底的に崩し、歪めていく。
 グロテスクで、どこかアブノーマルな行為はただの石像であれば芸術品の枠で見られたのかもしれない。
 しかし、芸術家の眼前で歪められているのは人間だったもの。細い体や豊満な胸はそのままに、服がボロボロに崩れて全裸になっていく。
 手足のバランスを取るために細部が膨れあがり、よりいびつに、怪物めいた姿に変わる。

「美しいモノだけを作るんじゃない。美しいモノを歪めるのも、好きなんだ」
 語るようにつぶやくと、尻尾の材料となる石材が勢いよく生えはじめた。
 バキバキ、ボキボキと音を立てる石材は生成されては削れ、石材がトゲだらけの尻尾に代わっていく。
 長い尻尾は先端で球状に膨れあがったかと思うと三叉に砕け、まるで槍を思わせる凶悪な形状となった。

 翼もせり出すように乱雑な石版が丸まった背中に2枚生え伸びる。
 激痛だけではなく、苛む轟音に少女からの罵りはおろか、悲鳴すら聞こえてこない。
 何かを察したように翼の処理を済ませ、少女だったものの背中には使い込まれたかのような、いびつなコウモリ翼が生えそろった。

 そして、細部を確認してスタッフに三面鏡を持たせる。
「これで完成だ。気分はどうかね?」
 そう告げ、鏡を見せる。返答はすぐにかえってきた。
『わたし、わたし……ギ、ギ……ギヒッ! グギギッ!』

 ひしゃげた馬面に肥大化し、かぎ爪となった巨大な手足。醜くねじれた角に大きく裂けた口は恐竜を彷彿させる。
 長く伸びた尻尾の先端は槍のように鋭く、翼は使い込まれたかのように先端がボロボロになっていた。
 そんな姿を見せられ、轟音をひたすら聞かされる。
『ギィーッ! ピギャーッ! ギャハハハハ!!!!』
 非人道的な拷問と大差ないレベルの加工処理に、いつしか少女は自分が人間であることを否定していた。
 もはや人間ではなく『ガーゴイル』と言っても差し支えないだろう。意識下で通じる応答は、狂ったような笑いと鳴き声を放つばかりだった。

 そうだ、これでいい。最高だ。
 芸術家は絶頂すら感じるほど、作品の仕上がりに満足していた。


 とある美術館に一対の彫像がある。
 元は一体だけだったが、芸術家の判断からの要望でもう一体展示することとなった。
 美女に異形のパーツを合わせた作品とは対照的に、異形のパーツに美女の体を組み込んだ醜悪な作品。
 この組み合わせには賛否両論となった。人々は言葉を交わし、時に人格攻撃をも加えた罵りの中で作品を批評した。

 だが、当の芸術家はおくびれることなく、1対の姿を遠くから見続けている。
 美しくも醜悪、しかしもう一方は人の心を見いだすかのような醜悪そのもの。
 多種多様な反応と、巻き起こる論争。
 1対の彫像は、いつしか大々的、かつセンセーショナルに取り上げられるようになった。

 その反応をテレビで見つつ、あきれるように電源を切る。
 しかし、芸術家の顔は、まるで人を貶めるのに成功した悪魔のように笑っていた。
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