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3話 転校生と理科室パニック

今までの更新はこのための布石だったのだ!
と言いつつプレッシャーを掛けてました、大切大切。

今回はちょっとグロと言うか人体模型が出るので、気になる人は注意。
でもショタが出るよ。

preview3サン

 しろくろにっき ~転校生とイロクイ~
「えと、青葉・サンと言います。よろしくお願いします!」
「……」
 翠の学校に外国からの転校生『青葉・サン』がやって来た。
 どことなく女の子のような、しかしよくわからない見てくれ。パーカーに長ズボン。ショートカットと見た目は男っぽい。たぶん男だと思いたいが――。
「(真畔のようなのもいるしなぁ)」
 正直、翠は転校生に対して興味はない。どちらかと言えば今は、きらりと共にしている真畔が気がかりで仕方がなかった。主に付きまとわれていないかという点でだが。
「それじゃ青葉くんは――六宮さんの隣、いいかしら」
「……えっ」
 そんな朝礼の一幕に、まさか転入生が隣に来るなんて誰が思おうか。

「よろしくお願いします、リクミヤさん」
「うん。……」
 気まずい、何を話していいのかわからない。先生が視線の先で授業をしているものの、まったく頭に入ってこない。かといって、サンに好意を抱いているわけでもない。強いて言えば――。
「(なんか、しきりに見てる!)」
 サンが何度も翠に視線を向けていることだろうか。今まで隣に誰も座っていなかった窓際の席だけに、気になって仕方がない。
「あの、リクミヤさん」
「何?」
「教科書、見せてもらいませんか?」
「……いいけど」
 一瞬声が高く上がったのが気にはなったが、緊張してたのだろう。変に突っ込んで嫌な印象をあたえるのも好きではない。翠はしぶしぶ教科書をサンに見せる。
「ありがとうです、リクミヤさん」
「(先行きが不安になってきた)」
 教科書を見せつつ、早くも疲れてきた翠。一方でサンは教科書を見つつ、翠の様子がきになるのかしきりに伺っていた。
 そんな転校してきたばかりのサンを尻目に、この教室ではある計画が密かに持ち上がっていた。

 昼休み、サンはクラスメイトの男子に引っ張られるように体育倉庫の前に連れて行かれた。そこいたのは男女合わせて4,5人。いずれもクラスメイトである。
「お前、六宮と席近いよな」
「はい、そうですけど……ええと」
「ケンでいいぜ、杉下健児。こっちは美奈子。あとは俺の家来だ」
 短パンTシャツな少年、健児はつっけんどんに紹介する。ケンとは対照的に隣にいる長髪の少女、美奈子は言葉なく一礼する。
 その一方で家来と聞いて顔が少し曇るサン。家来という言葉は、サン自身も配下に引きこもうとするかのように聞こえたからだ。
「そう変な顔するなって。ちょっとお前に頼みたいことがあってな」
 そういい、ケンがあるケースをサンに押し付ける。
「これは放課後、あいつに渡せ」
「あいつって、リクミヤさんにですか?」
「あぁ、絶対にだぞ」
「(ナンでしょう、ケンくんもリクミヤさんが好きとか?)」
「とにかく任せたからな!でないと――」
「でないと、なんですか?」
 後ろ手を回すケンに警戒するサン。
「ドッジボールで集中狙いだからな」
「そ、それだけは!」
「ハハハ、冗談だって。引っ越して間もないんだろ?遊ぼうぜ」
 健児が元気そうな笑顔を見せると、サンも心を許して笑顔を見せる。
「ナイスジョーク、よろしくお願いします」
 しかし、健児は美奈子に引っ張られるとサンに『先に言っててくれ』と告げ、ドッジボールと謎のケースを押し付けて美奈子を連れてその場から去っていった。
「……フタマタ、ですか?」
 サンは押し付けられたドッジボールと去っていく2人を交互に見、呆然とするしかなかった。

「あれでいいんだろ、美奈子」
「OK、後は放課後、わかってるよね」
「あぁ、青葉を理科室へ引っ張ってけばいいんだよな」
「そうそう。そして翠をこの学校に来れないようにする」
 先ほどまで無愛想だった美奈子の口から、恐るべき計画が放たれていく。
「そのために理科室から借りてきたのだから……あとはわかってるよね」
 冷たく言い放つ言葉に健児も頭が上がらない。ただ美奈子の言いなりになるしかなかった。
「四谷さんにシカトしたり、言葉をかけてもらったのに走り去ったこと。全部後悔させてやる」

 そんな陰謀もしらず、昼休みが終わり、授業を終えるチャイムが鳴り、帰りの回も終わった。
「やっとおわった」
 隣に慣れないクラスメイトが居ることで緊張したのか、ぐったりとする翠。そんな翠にサンはねぎらいの言葉を掛ける。
「お疲れ様デス、リクミヤさん」
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「お疲れだーよ」
「ファッツ!?」
 突如サンの背後から覗きこんできたツインテールの少女に、サンは思わず驚きの声を上げる。一方、翠はダルそうに言葉を返す。
「あぁうん。おつかれてる」
「ええと、あなたは確か」
「四谷だーよ。四谷城奈。青葉くんもよろーだよ」
 ツインテールの少女、もとい四谷・城奈(よつや・しろな)は若干間を伸ばした口調で翠に話しかける。とはいえ翠は城菜のことをある程度把握しているから、今更感はある。
 城奈の家はこの町の名士であり、祖父は市議会議員という境遇にある。一言で表せば『お金持ち』だ。そんな城奈の周りにはなにかにつけて寄ってくるクラスメイトも多く、翠にとって一種の派閥のように感じ、その集まりが好きになれない。これが翠が城菜に感心を持ちたくない理由だ。
「だね、それでどうしたの城奈」
「いやいやー、疲れてるから大丈夫かなーと思ってねー。こういうのはノブリス何とかっていうんだーよ」
「ノブリス・オブリージュ、ですか?」
「そうそう、ノブリン・オブリージュ!」
 胸を張って語る城奈だが、サンが聞かなければ適当に濁してたに違いない。内心そう思いながらも言葉を伏せ、スマホを確認する。今日は珍しく、きらりからのメールが入っていない。
「いつもメールよこすのに……まぁいいや」
 翠はそうつぶやき、ほかのサイトを見て回った。

 互いに会話するサンと城奈。話しかけられてるのにスマホを見る翠。そんな光景をを見、焦り、怒りを募らせる人物がいた。
「(青葉のやつ、早く渡せって!)」
「四谷さん……なんであんな奴に近づくの?」
『抑えろ』と制止する健児だったが、美奈子の沸点は限界まで達していた。
「もう我慢ならない。四谷さん!」
 健児の制止を振り切り、四谷に話しかける美奈子。
「ふえ? どうしたーの時任さん」
「いいから、来て」
 時任美奈子、もとい美奈子に引っ張られていく城奈。
「ああー、六宮ちゃんまたねー」
 手を振る城奈に返す翠。そこに入れ替わるように健児が現れる。
「何だエロケンか。何か用?」
「お前に関係ねぇよ! おい、青葉。ちょっと来い」
「ハッ、そうでした。六宮さんこれを」
 サンが六宮の机にケースを置くと、健児は慌ててサンの腕を強く引っ張る。
「アウッ、すみませんちょっと行ってきます!」
 サンも健児に引っ張られ、教室を後にする。
「……何が何やら」

 一方、引っ張られたサンはそのまま理科室へと引っ張られていた。
「どうしたのですかケンくん!」
「お前タイミング悪すぎ! いいから理科室に、早く」
「えっ、ううん、なんかゴメンナサイ……」
 しょんぼりするサン。結果オーライにはなったが、もしかすると理科室に翠をおびき寄せる目論見がバレたかもしれない。もしそうだとしたら、健児は美奈子と仲の良い女子によっていじめの標的にされてしまう。そんな恐怖が頭のなかを渦巻いていた。

 そして、残された翠は、サンの残したケースを手に取る。裏には理科室の備品を示すシールがはられている。
「これ、理科の備品……なんであいつが?」
 サンを引っ張っていった健児の顔をふと思い出し、どこか嫌な予感を感じさせる。
「まぁ、持ってこう」
 しかし迷っていても仕方がない。翠は理科室へ私物を届けに向かうのであった。

「どうしたのー? 時任さん」
 廊下へと引っ張られた城奈は、美奈子に言葉をかける。
「いや、なんとなく……それより、なんで四谷さんは六宮さんに関わろうとするの?あんな――」
 無愛想で、何も見てないシカト女に。そう言おうとしたがギリギリでこらえる。嫌われたらそこまでだ。
「うーん、しいていえばー、変わってるーでもないし。仲良くはなーりたいね。一人ぼっちってイヤじゃない?」
「だからって、なんでわざわざ何度も話しかけるの?」
 美奈子の顔が曇る。その口ぶりは間違いなく、これからも城奈は翠に関わろうとする姿勢が見えた。
「確かにまだまだダメだーね。でも、何度も、何度でも失敗と挑戦を繰り返して、初めて成るものだーよ。うちを育ててくれた爺ちゃまの言葉でもあるしね」
 にっこり微笑みつつ、城奈は美奈子とは対照的に明るく返す。
「……わかった。ごめん」
「だから時任さんも――あれ?」
 これ以上話が進まないとわかった美奈子は、逃げるように城奈の前から走り去る。
「(もう構わない、あいつさえ消えてくれれば済む話。そしてあのバカ男も一緒に陥れて、目障りなのは全部消える!)」
 健児がサンを引っ張ってく姿が見える。遅れたが万事うまく行く。全てを完遂させるために美奈子も理科室へ向かった。

 ――そして理科室。
 美奈子の下調べもあり、誰も使われていない理科室には子供たちが集まっていた。
「うまくやれたわね。いい? 六宮さんが来たら回りこんで隅に追い込む。それまで机の下で隠れてなさい」
 集まっている子供は8人。美奈子と健児、サン、そして健児が家来と言っていた少年3人と少女2人。
 サンを除けばそれぞれが美奈子によって弱みを握られ、従わざるをえない状況下にあった。健児もまた、プールの女子更衣室を覗いていたところを美奈子に見つかって脅されている身。言いふらされればヘンタイのそしりは免れないだろう。
「あいつ、来るのか?」
「放置するならあいつが盗んだことにするだけ。絶対来るわ」
 根拠の無い自信を盾に、美奈子と健児も後ろの机に隠れる。サンも健児に引っ張られる形で一緒に机の下に潜っていた。
「ミナコさん。こんなこと絶対良くありません。今すぐ――」
「黙りなさい」
「ヒッ!」
 底冷えする言葉がサンの腰を引かせる。
「あんたがあのケースを受け取った時点で共犯よ。失敗したらそうね……化粧でもしてあげようか」
「メイク、ですか?」
「そう、そして写真を撮るの。他の人に見せたら、カワイイだけで済むかしらね」
 美奈子の顔に悪意混じりの笑みが浮かぶ。
「うーん、ミナコさんがカワイイというのなら、喜んでもらえると思いますよ」
 もちろんサンの考えているような、ただ化粧をしての写真撮影ではない。下着なども剥ぎ、あられもない姿の写真を撮る。それをサンを従わせる首輪にするつもりだ。
 さまざまな考えが交錯する中、時間は16時を周り、1分を過ぎようとしていた。分針が動き、時を進める。すると、同時に理科室の棚が大きく音を立てた。
「なんか今、妙な音が聞こえませんでした?」
「俺じゃないぞ」
「2人共黙ってなさいよ、翠に気づかれたらどうするの」
 続いて美奈子の肩に人間の手とは違う、硬い物体が当たった。
「なによ、からかってるのー」
 美奈子が怒りつつ後ろを振り向く。そこにあったのは、人体模型の顔。腕の模型が美奈子の方に乗っていた。

「イ、イヤァァッ!!?」
 人体模型の口元がニタリと笑みを浮かべると、美奈子を机の下から引きずり出していく。
「美奈子!? 何だこの化け物」
「わから、あ、が、たすけ、身体が」
 引きずり出された美奈子は人体模型によって宙吊りにされ、美奈子の体から『色』が霧のように吹き出す。人体模型に流れこむ色とは対照的に、美奈子の体には樹脂特有の光沢が走り、見開いたまま動かなくなる。服や髪も身体に張り付き、人体模型を彩るデザインと化していく。
 そう、人体模型のイロクイはこのようにして色を奪い、彼女を同じ色に塗り替えようとしているのだ。
 そしてイロクイは美奈子の模型人形を地面におろし、変化が終わった胴体の表面をに手をかけ、そのまま取り外す。
「(ひっ、私の身体に変なことしないで!)」
 美奈子の模型の中には、人体模型と同様に腸や胃、心臓といった模型が詰まっている。イロクイは一番外側にある小腸と大腸の模型を抜き取り、表情を変えぬまま左手で自分の腸模型を抜き取った。
「( やめて、私から抜き取らないで)」
 どちらとも本物ではないプラスチックで作られた作り物の塊。しかし、見る間に形を収縮させ、サイズを合わせると、イロクイは中身を入れ替えるように大腸をはめ込んだ。
「(お願い、そんなことされたら、死んじゃうから……)」
 自分の体が変わったことに対する不安と、臓器を抜き取られるという恐怖。そして入れ替えられた場所から急速に熱と重みが消える感覚は、年端もいかない少女に死を感じさせる。
 だが、人体模型のイロクイは再びニヤリと笑い、肝臓と膵臓の模型を掴んで入れ替え始める。内臓すらも入れ替え、色を全て奪おうとする恐ろしさに、サンの顔は見る間に青ざめる。
「イ、イロクイ……」
「イロクイだかアリクイだかいいから先生を――」
 少年がサンに言いかけた瞬間、白い物体が少年に覆いかぶさる。
「うわっ、何だこの生ぬるいの!?」
「ケン君!?」
 しばらくもがきながら抵抗を図る健児だが、その姿が完全に飲み込まれると見る間に抵抗が静まっていく。
 そのまま白い物体は人の形を作り始め、足の歪んだ健児――もとい、蝋のイロクイへと変化した。
『このカラダ、モラッタ。オレのものだ!』
「うわぁ! 健児が妖怪になった!?」
 机の下から飛び出した健児の身体を得たイロクイ。その眼前に見えるのは、健児の声に運悪く飛び出した少年3人。
『オマエのイロ、ヨコセ!』
 イロクイが力を込めると、腕が一瞬にして丸太のように膨れ上がる。そして破裂音とともに健児の腕が割れ、周囲に透明な液体が炸裂した。
「腕が割れた!」「あつぅ!?」
 近くに居た少年2人が液体をモロに浴び、逃げようとした最後の1人も足や手、背中に液体が降り注ぐ。直撃を受けた少年の全身は空気に触れることで白く蝋化し、すでに驚き、身をかがめてるつららの垂れる蝋人形へと変わってしまった。
「動かないよ! 誰かぁ!」
 中途半端にかかった蝋は、少年の身体を滑るように広がり、侵食していく。動かなくなる恐怖に泣き出す、蝋は止まること無く全身を覆い尽くし、磨き上げられたかのような泣き虫蝋人形ができあがった。
『ハハハ、塗り替えた! どんどんオレ、強くなってくぜ!』
 腕を再生しながら高笑いする蝋のイロクイ。だが、その声は健児そのものだった。
「早くここから逃げないと」「でもここからでたら固められちゃう」
 教壇の後ろに隠れている少女2人も、うかつに出てくれば少年たちと同じように蝋人形にされてしまう。
 少女一人に責め苦を与える子供の悪知恵は一転、怪異による惨事と化した。

「どうしよう……ええと、こんな時はカラーを使うしかない、ですね」
 机に隠れていたサンは、かろうじて被害を負わずに済んでいた。それでも足元には少女だった模型の足。逆方向には蝋のイロクイ。逃げ場はおろか、下手に動けば的にされてしまうだろう。
 だが、このままでは美奈子の色が全て奪われてしまう。そうなってしまえば元に戻すことはできない。
「賽は投げられた――です!」
 サンはすかさず美奈子の足を掴み、念じる。するとサンの身体からオレンジ色のオーラが立ち上り、足から美奈子の模型全体を包んでいく。
 これがサンの『色』。そしてその色は少しずつ美奈子の体を生身へと戻していく。
「いけてます。これなら!」
 このまま行けば少女の体からイロクイの力を飛ばし、元に戻すことができる。順調に思えてきたその時、目の前に白い”ヤツ”が覗き込んだ。
『ヘェ、色使いが近くにいるナンテ。気付かなかった』
「ウップス!? ケン君、今は待って!」
 集中のあまり感付かれたか、とっさに逃げようとしたがすでに遅すぎた。蝋のイロクイは体を崩して、サンを包囲すると両手を掴んで動きを封じる。
「手が……」
 そして、異変に気づいた人体模型のイロクイが机の下を覗きこむと、サンの身体は見る間にマネキンに変わり、生身の体は手首と頭だけになった。
「ス、ストップ、やめて、僕を食べても美味しくないですよ!」
「色使いの色を塗り替えるだけでもイイさ。ほーらどんどん色を変えてイクヨ?」
 呆然とする人体模型を尻目に、蝋のイロクイの両手はサンの腕を侵食し、腕を少しずつオレンジ色の蝋に変え、足も着実に蝋に塗り替えていく。
「……」
 手を伸ばし、体を自分の方に向かせようとする人体模型のイロクイ。しかし蝋のイロクイが身体でブロックし、阻む。
『ハハハ! あのウスノロに睨まれたら人形にナルンダ。こいつは俺が塗り替える』
「イタイイタイイタイ! 助けて、誰か助けて!」
『もう無理だよ、来たって何も変わらない、真っ白に――』

『真っ白な蝋人形にしてやる』。そう言いかけたとき、蝋のイロクイは背後からツブテを受け、体が弓なりに反れた。
『アア"ア"ァァーーーッ!!』
 何が打ち込まれたのかはすぐに分かった。それは色、しかも自分の天敵である”黒色”だった。蝋のイロクイは背に火がついたかのように絶叫し、机の上で不形の姿で暴れ狂う。
「何やってんの?」
 翠は手を払い、チョーク箱からもう一本、黒く染め上げたチョークを取りだし、投げつける。チョークは折れながらも床をはね、線を残しながら途中で止まった。
「リクミヤさん、もう一体いるからあぶないです!」
「知ってる、イロクイが2体とかまずいよね、かなり」
 サンの言葉に机の下を覗いでいた翠は呆れつつも身体を戻し、チョークの粉を払う。サンも蝋のイロクイが悶えている間に変えられた部分を塗り直し、元の姿に戻す。
『キサマ、キサマァ! ヨクモ僕に、黒をブツケタ!』
 しばらくするとイロクイの激昂が聞こえ、怒りのままにのたうちながら、翠の元へ這い進んでいく。
「ゴメンナサイ、みんな止められなくて」
 サンは申し訳なく頭を下げる。
「それより、こいつらを何とかしないと」
「ハイ、それにケン君が取り込まれてます」
「助けたくないなぁ。でも、あとが悪くなりそうだし何とかしよう」
 クラスの悪ガキリーダーである彼を助けるのに消極的な翠だが、イロクイが絡むとなると話は違う。イロクイに色を奪われた人間は衰弱して死ぬか、体を乗っ取られて人間に擬態されてしまう。そうなっては新たな被害が増えてしまう。
 やることは一つ、対抗できる色を持っている以上はイロクイを追い出すしか無いようだ。

「サンでいいよね、蝋のは何とかするから人体模型を止めて」
 その人体模型のイロクイは翠の黒色に表情を動かすこと無く、美奈子の模型に視線を戻す。そして肺や胃、心臓を次々抜き出していく。その手はサンの色を物ともせずに動かし、ペースを早めていく。
「今やってますけど、ミナコさんの色をキープしないと」
「だったら――あぁもうこいつ」
 瞬間、飛びかかる蝋のイロクイを避ける翠。
「そいつの蝋も、ついたらピカピカになってしまいます!」
 机の下にかがみ、黒い色と一緒に飛んでくる蝋をやり過ごす翠は、『ピカピカ』という言葉に、近くに佇んでいるクラスメイトの蝋人形を見る。
「あぁ、何となくわかった……まずいねこれ」
『アアアアアア! クロイヤツ、潰す!』
 流れるような動きで翠に体当たりをしかけ、間一髪で避ける。もし包まれれば蝋人形になってしまうかもしれない。だが、前に出ると今度は後ろからイロクイが襲い掛かってくる。
『ぶつかってヤル、ヌリツブシテヤル!』
 再度突進するイロクイは机の脚を蝋に変え、今度は首だけだして様子をうかがう。
「こうなったら、いちかばちかかな。もう少し行ける?」
「僕はいけます。でも、どんどんミナコさんの色が無くなってます」
「いいからおもいっきり注いで。そいつ、少し痛い目見せていいから」
 翠の言葉にありったけの色を美奈子に注ぎこみ、急場をしのごうとするサン。しかし、サンの行為は穴の空いた桶で水をすくうかのように、少しずつ美奈子のパーツが入れ替えられていく。そして、人体模型のイロクイが美奈子の心臓を入れ替えると、同じく交換した肋骨の模型で蓋をした。
「(たすけ、て。わたし、なくなる)」
 しばらくして、美奈子の顔半分に線が入り、人体模型が力を入れて外すと、顔の筋肉と眼球、そして脳の模型が半分だけむき出しになる。その姿はまさに、理科室に飾られている人体模型そのものだった。
「ノー、このままじゃ間に合いません」
「ううん、こうなったら先に模型の方から?」
 先に人体模型に黒の色を叩き込み、動きを止めたところで引き剥がす。その望みに賭けて机から飛び出す翠だが、生じた隙を蝋のイロクイは見逃さなかった。
『イタダキ!』
 イロクイはすかさず体を伸ばして翠の足を掴み、そのまま包むように彼女の体を取り込んだ。
「リクミヤさん!?」
 返事が帰ってこない、視線を向けた先にはうごめく白い塊。サンの心に暗雲が立ち込め始めていた。

 自らの身体の中に取り込んだ蝋のイロクイは、翠の手足をそれぞれ縛り上げ、スカートの前方をまくりあげる。
『ウヘヘ、エロイポーズ取らせて染め上げてヤル』
 そのまま下着が丸出しになるようスカートを固定し、まるで下から上にスカートをめくられたかのような格好を取らされてしまっていた。
「こいつ、中身はエロケンのままか」
 城奈と同様、健児のこともよく知っている。クラスのガキ大将であり、スカートめくりの常習犯として知られている男子――なので翠は『エロケン』と呼んでいる。そんな奴だからこそ戻すのを渋っていたが、こんなことになろうとは思いもよらなかった。
『ダマレ! こいつはもうオレのものだ。それにオマエはここで染め上げられる。ゲコクジョウだ!』
「そう、言われると……」
 翠の手足は縛られ、色を塗るにもイロクイに届かないように固定されていた。きらりがいればなにか変わるかもしれないが、ここにはいない。サンも美奈子で手一杯というな状況。イロクイに取ってすれば、またとないチャンスだろう。
 イロクイの蝋は翠の下半身を飲み込み、足とスカートにしつこく蝋を重ねていく。さすがに何度も重ねられてしまえば、色も使えなくなってしまう。全身もまた、同じことだ。
『このまま全身蝋で――ナンダ、アレ?』
 このまま上半身と腕も固めようとするイロクイ。だが、ふいに蝋のイロクイが怪訝そうな声を上げて動きが止まると、手足の拘束が緩み、翠はイロクイの拘束から開放された。
「なんだか知らないけど、この距離なら」
『ゲッ!?』
 翠は有無をいわさず手をあげて蝋の中に突っ込むと、力の限り自分の色を流し込む。
『グゲエェェェ!!?』
 黒色を流し込まれ、蝋のイロクイは思わず翠を吐き出す。翠の下半身は固められたままだが、それ以上にイロクイの体は灰色に染まり、黒く変色しつつあった。
『あの火の色さえ、なければ……』
 黒く染まった蝋イロクイは力なく声をあげ、ぴくぴくと震えるだけしか動けなくなった。拘束が緩まず、手も固められてしまえば抜け出すことは叶わなかっただろう。翠はなぜ解放されたのか知るために、周囲を見回す。
「火の色……あっ」
 翠が扉を見ると、閉めていたドアが何故か開かれ、入り口近くの机には赤い色がぶちまけられたかのように残っていた。

「うぅ、もう限界です」
 翠が抵抗していた頃、サンもまた限界に近づいていた。美奈子の脳模型が入れ替えられてしまえば、彼女の全てがイロクイになってしまう。そうなっては元に戻すことも出来なくなってしまう。
 サンの色、『オレンジ色』は活力の色。色の代わりに補充し、力を分け与える色。この色は一般人がイロクイの犠牲にならないように使うもの。父と誓った大切な力だ。
「だから、だから負けません。リクミヤさん、必ず来ます」
 自分の色を使い果たしてでも耐えぬく。決意を新たに色を注ぎこむも、すでに眼球を入れ替えられ、人体模型イロクイの手は美奈子の脳模型に伸び、触れる。
「(それ、だめ――)」
 色に抵抗するようにゆっくり力を込め、脳が引き出されていく。美奈子の意識は消え失せ、いよいよ物言わぬ人体模型へと変わる。さらにイロクイはもう一方の手で自分の脳を引き出し、人体模型のイロクイはゆっくりと入れ替えようと腕を動かす。
 だが、その手は動きを止め石のようにこわばり、動かなくなる。人体模型のイロクイは燃料の切れかけた動力のように激しく軋み、抵抗するも動くことはない。
 そして、握っていた美奈子の脳模型が指から滑り、元の器に戻った。
「サン、引き剥がして」
「です!」
 間に合った。蝋イロクイから抜けだした翠は腕で這ってイロクイにしがみつき、黒色を左半身に目一杯流しこんでいた。そしてサンは人体模型となった美奈子の太ももを持ち、素早く引き剥がす。
「戻って下さい、まだ、大丈夫です!」
 握られていた脳が戻ったことで意識が戻り、奪われ続けていた美奈子の色が満ちていくと、顔の欠損も元通りに治っていく。美奈子の体は少しずつ、元の姿を取り戻していった。
「もう疲れた、動かなくなれ」
「…………」
 人体模型を制御していたイロクイが黒で塗りつぶされると、人体模型は動きをとめ、元の模型へともどった。

 理科室に静寂が戻り、蝋人形だった少年達はサンによって元に戻された。教壇に隠れていた2人は、蝋のイロクイに取り込まれていた間にうまく抜けだしたのだろうか見つからなかった。
 イロクイを撃退した2人だが、これで全てが解決ではない。
「サン、あと1つお願い」
「オーケー、これ――ワオ」
 後ろを振り向いたサンが思わず目を覆う。机から蝋のイロクイを掴んで翠をみると、イロクイによって白く固められた、パンツ丸出しの翠の下半身が飛び込んできたのだから。
「見るな、忘れろ、やれ、はやく」
「ソ、ソーリー。日本の女性って怖いです……」
 ドスの聞いた翠の声にサンは慌てて視線を変え、残っていた瀕死のイロクイからケンの色だけを補充していく。イロクイの体は元の健児の姿に戻り、そこには幸せそうな表情で眠っている健児の姿があった。

 その後、理科室で起こった騒動は先生の耳に入り、サンと翠は先生にたっぷり怒られた。備品について怒られることはなかったが、理科室でチョークを投げたり人体模型を動かしたことは許してはもらえなかったようだ。サンと二人がかりでも重たい人体模型をケースの中に入れることはできなかったから、仕方がない話ではある。

 放課後、罰の理科室を掃除しながらサンは翠に洗いざらい事情を話し、美奈子の暴走を止められなかったことを詫びた。
 その様子に翠はしばし呆れた目で見ていたが、クラスメイト――城奈の取り巻きに煙たがられていたことを知っていた翠は、サンを許しメールアドレスを交換したのだった。

 健児と美奈子は保健室に運ばれたが、健児はすぐに起き上がったという。サンの最初の友達となり、スカートめくりの回数も少しは減った(気がした)。
 一方、美奈子はしばらく学校に休み、カウンセリングを受けることになった。イロクイから受けた苦痛がトラウマとなったのか『お腹をとらないで、殺さないで』と呻いていたという。クラスメイトへの脅迫や強要も後日明かされ、先生はしばらくその処理にてんてこ舞いとなった――が、翠にとっては心底どうでもいい話だった。

 気になるのは、助けてもらった謎の赤色。誰がやったかは分からないが、この学校にもう一人色使いが居ることは間違いない。だが、今はそれすら考えるのが面倒だった。
「……疲れた」
 家に戻った翠は自分の部屋に入り、ベッドに身を投げ出すのであった。

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