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散らばる色と謎のイロクイ

かけるうちにどんどん進めていくよ

「(……)」

学校に戻ってきた美奈子を遠巻きに見つめながら、翠はあることで頭がいっぱいだった。学校の統合である。


元から色渕ヶ丘の学校は入ってくる人数が少なく、近いうちに合併の噂を親越しに聞いていた翠だったが、橙乱鬼による騒動のせいですっかり頭から抜け出ていた。

「(新しい学校、かぁ)」

おそらく終業式には説明もあるだろう。翠にとっては親友であるきらりと同じ学校に行けるというのは嬉しい限り。もちろんクラスが一緒かどうかは別問題だが、それでも距離が近くなるというだけで、学校に行く気も少しは増すというものだ。


授業も終りを迎え、新しい学校のことをフツフツと思っていたさなか、持っていたスマートフォンが震えだす。いつもどおりきらりからだ。

『公園に変質者が出るようになったんだって。怖いよね―。 あと真畔ちゃんが今日神社に来てって』

翠は『わかった、どこで集まる?』とだけ返し、帰りの準備をする。

「また『危ないところに行くな』って言い出すんだろうなぁ」


そういえばイロクイと遭遇したのもあの公園――帆布中央公園だ。緑地に据え置かれている公園は色渕ヶ丘、筆咲両方の子供が集まる場所。できれば早く解決してほしいものだが……。

水色のランドセルを背負い、防犯ブザーを確認する。もし相手が本当に変質者だとしたら、これを鳴らせばいいだけだ。


再びスマートフォンが震えだす。きらりからの返答は案の定『中央公園で』だった。

「きらりのこういうところは変わらないというか何というか……まぁいいか」

そうつぶやき、翠はノートをまとめている城奈の席を通り越す。

「今から神社行くけど、ついてく?」

「ごめん、今日は用事なのね。話は後から聞くのーね!」

「わかった、おつかれ」

サンは多分エロケンこと健児と一緒だろう。既に教室には居ない。翠は待たせないよう、急いで学校を飛び出し、公園へと向かった。



「すーちゃんやっほー! あれ、城奈ちゃんは?」

「今日は用事があるらしい。まぁ紫亜さん絡みなら知ってると思うし」

「そっかー。それより変質者だって」

公園は変質者の話のせいか、遊んでいる子もまばらになっている。騒動で壊れかけたジャングルジムも直り、緑地の近くには侵入防止のテープが外され、代わりに不審者注意の看板が立てられていた。


「イロクイじゃなくて?」

「ちゃんとした人っぽいよ。コート着てておっきくて、子供ばかり狙うの」

「どう見ても変態だ。何かある前に行こうか」

いかにも怪しさ爆発という風貌。ほんとうにいるかも怪しいが、用心に越したことはない。早く行こうと急かす翠だが、ふと視線の先に話に出てきたかのような、大柄な人影が飛び込んできた。


「きらり、あれ」

翠が指をさすと、そこにはテンガロンハットをかぶり、コートを纏った大柄な人間の姿。顔などを隠しているため性別もわからないが、梅雨明け間近のこの季節には不釣り合いな格好に違いない。

「指さしちゃダメだよすーちゃん。でも……」

「とにかく、走ろう」

きらりは頷き、巨体とすれ違う直前でスピードを上げる。


「ム? イロ……」

すると、巨体は何かに感づいたように、2人の進路を向き、走り始めた。

「どうしよう追ってきた!」

「これを使おう」

翠が手早くランドセルの横についている紐を引くと、大音量が鳴り響く。顔をしかめながら投げつけると、コートの巨体は驚いた様子を見せてその場に立ち止まった。

「やったね、すーちゃん」

「あとは警察に任せよう」

全速力で走る様子のない巨体はいつしか見えないほどにまで遠くなり、2人はそのまま紫亜のいる布津之神社へとむかった。



「ウゥゥ、ウルサイ」

一方、巨体の前には鳴り響くブザーが転がっていた。巨体は無造作にそれを掴むと、顔の中に放り込んだ。

「……」

ブザーの音は井戸の中に落としたかのように小さくなり、やがて止まる。

「マズイ」

そして吐き出すように前かがみになると、白い物体を顔と思われし場所から吐き出す。先程まで鳴り響いていた防犯ベルは地面に溶けこむように変色し、アスファルトと同じ色になる。


「イロ欲しい。もう草木のイロは飽きたぞ。ニンゲン、ニンゲンの色が食べたい」

ぼやく口調は体の底から響くようであり、人間らしさを感じない異質なもの。まるでイロクイのように当たりをうろつき、生命力――『色』を求めている。

そこに運悪く駆けつけたのは、付近を巡回中の女性警察官だった。メガネを掛け、ややつり上がった目をしたクールな印象の女性だ。


「失礼、防犯ベルがこの辺から鳴っいたけど、話だけでも聞かせてもらえないかしら」

「話?」

「えぇ、この辺に不審者がいるの。まずはその帽子をとって」

警察官の視線は明らかに『こいつが不審者』と疑ってやまない目だった。それが恐怖に転じたのは、帽子を外してすぐだった。

「あ、あなた……何その顔!?」

「外したぞ、食べてイイか?」

巨体が帽子を外すと、そこには大きく口が裂け木の肌えお持つ顔。目はなく、あるのはポッカリと空いた2つのうろ。でもよく見れば手足はねじれた枝葉で作られた、巨木人間がそこにいた。


「あ、あぁ……とにかく、ここは応援を」

うろたえる女性警官に巨木は覆いかぶさるように抱きつく。ゴツゴツとした質感がコート越しから伝わり、力が抜けていく。


「離しなさい!公務執行妨害よ、早く、離して」

「よく分からないけど、お前はうまいぞ」

次第に抵抗が弱々しくなっていく警官。警官の服が、顔色が、そして髪が見る間に白くなっていき、色を失っていく。

「あぁぁ……」

そのまま警官の声は消え失せ、真っ白に変色した警官の姿はコートの下に消えていく。巨木の人間――もとい、イロクイが姿を起こすと、そこに女性警官の姿はいなかった。

「これでしばらく大丈夫そうだぞ、もっといっぱい食べたい」


そういい、コート姿のイロクイはその場から去っていく。その場にアスファルト色に染まった防犯ベルと、警察手帳を残して。




「待ってたわ。さ、早く早く」

女性警官が襲われていることなどつゆ知らず、2人は紫亜のいる布津之神社へとやってきた。ご神木は緑の葉を付け、境内はキレイに掃除されていた。

案内のままに大広間へとやってくると、そこには真畔だけでなく、橙乱鬼に乗っ取られていた藍、そして色鬼である零無の姿があった。

「もう大丈夫なの?」

「えぇ、大分身体も動くようになって…ごめんなさい心配かけて」

「それより他の人呼ばなくても大丈夫なの?」

「城奈ちゃんが代わりに説明してくれるってことにしてるから大丈夫。色々と忙しいみたいだしね」

紫亜の話に首を傾げるきらりだが、その流れを切るように零無が咳き込む。


「話を進めても良いか?」

「あ、はい。どうぞ」

全員が零無に向き直ると、小柄で白い色鬼は話を始める。

「橙乱鬼の一件から時間もそこそこ経ったが、どうも新しい色鬼がこの街に入りこんだようだ。ただ、今回は少し様子がおかしい」

「おかしい、といいますと?」

「反応が薄い。既に人を食らったあとか、あるいは……こいつのように取り込まれたか」

右手を伸ばすと、橙色の文様が浮かび上がり、喚くような声が聞こえる。

「橙乱鬼」

かつて帆布市を荒らし、被害をもたらした色鬼。その被害はいまだ癒えぬ場所もあるという。

「知識と力を少しずつ吸い上げているところだ。生かせばそのうち使いみちもあろう。その中で興味深いことが2つ解った」

「2つ、ね。どんなの?」

「急くな、紫の色使い。まず1つ、どうやら橙乱鬼にこの場所をそそのかした人間がいるようだ。誰かまでは分からないが、色使いを狙ったか何かだろう。そしてもう一つ」

「はいはい!この力って、そんなにすごいの?」

きらりは手を上げ、零無の言葉を遮る。一瞬苦い顔をする零無だが、諦めた様子で説明する。


「私にとってはそこまですごいものではない。しかしだ。色は力。悪用しようと考える者も当然出てくる。例えば、色で火が起こせるとなると、どう考える?」

「んー、ガスがいらなくなる?」

「そうだ。資源を節約できる。それだけだが、狙うには大きな理由となる」


色は生命力そのもの。しかし、同時に人間を動かす原動力でもある。その力を文明のために転用できれば、さらなる発展も期待できる――そこに人道的な問題を考えなければの話だが。

「とはいえ、ぬしらも薪にはなりたくなかろう。だから、この力はできるだけ使わないに越したことはない。という訳だ」

「うんうん、火に入れられたくはないよ」


「それで、もう一つは……?」

藍が心配そうに聞くと、零無は頷く。

「そうだな、もう一つはイロクイが奇妙な変異をしたことだ。おそらく橙乱鬼のもたらした色災の影響もあるのだろう。動きまわるのはもちろん、色を得るために高い知性を持ったものも出てきた」

「それって、人間と変わらないってこと?」

「その通りだ黒の色使い。餌にしているイロクイから得た情報だと、変種は喋りもするし頭も効くようだ。もっとも見た目は人間とはかけ離れているから見分けもつく。見つけたら色で鎮めてやればいい」

「それならいいけど」

ふと、先ほど遭遇した不審者が頭をかすめるが、つなげるには確かではない。翠はひとまず話すのをやめて話に耳を傾けることにした。


「以上2点。色々出るだろうが、気を緩めなければ問題ない。各自励むといい」

「というわけで、色神様からの話はおしまい。代えのお茶持ってくるからもう少し部屋で待ってて」

「あ、私も」

「橙の色使い、お前は少し残れ」

紫亜に続き、藍も出ようとするが、零無に引き止められる。

「一度乗っ取られたぬしに聞きたい。一度感じた色鬼、奴はどうしていると思う?」

尋ねられた藍は、きょとんとした顔を見せる。

「どうしているか、というと……動向ですか?」

「そうだ、動き方に関しては奴もまだ口を割ろうとしないからな」


藍はしばし沈黙を保ち、考える。自分の不甲斐なさが起こした過ちではあるが、まだ気持ちの整理はついていない。しかし、その過ちがなにかの役に立つのであれば……。

「まず、乗っ取られた後にできるだけ姿を隠そうとしました。直ぐにバレて、先手を打たれたくなかったので。ですが、その時抵抗して……」

「中央病院に入れられた。だな」

「はい。ですが、それが却って好都合でした。自分では動かずに健児くんを使って色々動けましたので」

「ふむ、ともすれば次に打つだろう動きも見えてくるな」

零無は感慨深く頷き、納得する

「……できたら、その動きというのを私に教えてくれませんか?」

「私も気になる」

「きらりも」

「ぬぅ、わかった解った」

零無はため息を付き、話した。

「色鬼はおそらく、駒を作るだろう。そしてそこからイロクイを生み出して色を蓄えるだろう。新たな色災を起こすためにな」


縁側にかけてあった風鈴が風に揺れ、音を鳴らした。


神社に色使いが集まっている放課後。浸かっていない体育倉庫では2人の女子生徒が怪しげな話をしていた。

「ま、まさかあんたが戻ってくるなんて思ってなかったよ」

「四谷さんに移ったとはいっても、気は弱いままなのね。利恵」

いや、話というよりも詰め寄られているというべきか。片方の少女は逃げようとしているが、美奈子は出口とは真反対の方向に少女を追い込んだ。


偲村利恵(しのむらりえ)は様子を伺うのが得意な女子生徒だ。いち早く美奈子に付き、弱みを握られないうちに忠誠を誓った、腰の軽い風見鶏な女だ。当然、美奈子が学校に来なくなってから真っ先に城奈へ鞍替えしたのも利恵だった。だからこそ、美奈子は利恵を呼び止め、力を知らしめておかなくてはならなかった。二度と逆らえないようにするために。


「どうするの? 先生に言いつけるわよ」

「そんな怖がらなくてもいいのに。私はね、あなたに気を強く持ってもらいたいの」

「……え?」

利恵は目を丸くした。赦しを得たからではない。やさしい口調とは裏腹に、皆個の頭に2本角が、背中に悪魔の羽が生えていたから。

「そう、鉄のような強い意志をね。この砲丸みたいに硬い意思をもって尽くしてほしいの」

逃げよう、そう思っても足が動かない。砲丸の玉を軽々と持ち上げた美奈子は、黒い霧と混ぜる。霧に溶けていく鉄球は見る間に体積を増やし、人間を飲み込まんとする形にまで膨れ上がった。


「たすけて!もう鞍替えなんてしませ――」

「お前は、今から私の家来よ」


鉄の玉が裂け、利恵を包み込む。一瞬のうちに張り付いて人型になると、表面が波打ち、変形しだす。

「んぐうぅぅーっ!?」

手足が砲丸を重ねあわせたような姿に構成され、胴体も丸みを帯びていく。表面には鉄の硬さと色艶。人の形から、砲丸を重ね合わせたような怪物のような形へと変わっていく。その姿はまさにイロクイそのものだった。


「アハっ、今日からあなたは砲丸イロクイよ! 私の命令のままに色を蓄えてきなさい」

「ハイィィーッ!」

砲丸イロクイが体育倉庫から飛び出すと、美奈子はバレないように体を黒い霧で包み、姿を消す。もし居たとバレれば自分の立場も危うい。それだけは避けたかった。


「イロ集め、色アツメルのぉぉぉ!!」

体育倉庫を飛び出した砲丸イロクイに、校庭で遊んでいた生徒は気づいたものから逃げ出したり、腰を抜かし始める。それは街を襲った怪物にそっくりだったからだ。


帆布市に再び、危機が訪れようとしていた。

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